通いなれたスタジオへの道すがら。
ふと足が止まる。
満開の梅がきれい。
ほころぶ表情、ふわっとする心。
溶ける感覚。春の気配。
横を流れる小川には2匹のカモの姿。
夫婦かな?兄弟・姉妹かな?親子かな?
東京でも早々に出た桜の開花宣言。いよいよ春へ。
梅も、桜も、やわらかーく咲いている。
この長く寒い冬の間、根に栄養を溜め、樹皮を厚くして、つぼみを固くして、
じっと耐え、自らを守って、「このとき」を待っていた。
寒さの季節、試練の時期は内なる強さを培う絶好のチャンス。
全く地味だけれど、大切な充電・待機のとき。
でもいつしか、必死になって、頑なに踏ん張り続けたせいで、手段が目的そのものになってしまいそうになる。
もう肩に力を入れなくても、奥歯を噛み締めなくても、眉間にしわを寄せなくても良いのに、「そのとき」が来ても今度は力が抜けない。
鎧を脱ぐと何か弱くなるような気がしてしまうー恐れなのか。
頑丈な兜と引き換えに見失ってしまったのは自分を信じる勇気ー愛なのか。
これまで十分に内側に栄養を溜め込んできたのだから、練習・経験という後ろ盾があるのだから、あとはやわらかく咲くだけ。やわらかくっていい。
こうして梅も桜もほんのりと咲いている。
根っこ・芯は強く、咲くときはやわらかく。
トンネルを走る電車の窓に映る自分のしかめっ面にギョっとする..
無意識に力が入り自分で重くしている肩。
陽気もポカポカ、ジャケットは軽くなったはずなのに。
この春風吹き荒れる中を逆走しているような。
ハムスターがハムスターウィールを永遠に駆けているような。
穴の開いた風船を必死で膨らましているような。
ー自分からスースーとエネルギーが抜け出ていっている感覚。
「あーこのループからどうやって抜け出たら良いのだろう?」
そんなぼやきに
「抜け出ようとしなくていいんだよ。風は待っていたらやむよ。」の一言。
...そだね。
身体も心も、固く閉ざしていたものを手放す移行の時期。
いつでも移行・転換には時間はつきもの。待つこと、それもまた練習だね。
ありがとう。
そんな不安定な春先だからこそ、
ふわっと溶ける "やわらかい瞬間" を大切にしたい。感謝したい。
気づけば例のしかめっ面で帰宅しても...大切な人・仔の顔を見たとき。
おいしそうなケーキを目前にして無条件に笑みがこぼれるとき。
親友の手紙を読み返し、「うん、大丈夫」って思えたとき。
大好きな日常の風景ーお洗濯物が太陽の日を浴びて風に揺れているのを眺めるとき。
今日は小鳥の声も聞こえてきた! うん、春だなぁ。
探したら限りない。実はそこら中にこぼれているインスピレーション。
今はそのひとつひとつが余計に有り難く、胸に染みる。文字通り、溶かしてくれる。
メキシコ・カンクンに住む甥っこからの手紙。
送ってくれた荷物と一緒に、大きな海の向こうから届いたメッセージ。
文字を書き始めた頃だろうか?もう数年前。
以来ずーっと冷蔵庫に貼ってある。
人に必要な、最も大切な気持ちを思い出させてくれる。
自分にいうのも、他人(ひと)にいうもの、本当はこの2つだけでいい。
Thank you.
I love you.